不妊は女性だけの問題と思われがちですが、決してそうではありません。実は、不妊症に悩んでいるカップルの48%は、男性側にも原因があると言われているのです。
男性不妊の検査には勇気がいりますが、簡単な特徴や原因を知っておけば、検査に行くきっかけにもなるはずです。
本記事では、そんな男性不妊の原因やなりやすい人の職業や見た目などの特徴を詳しく解説していきます。男性不妊の検査・治療方法も紹介するので、子どもが欲しいと考えている方は是非最後までご覧ください。
男性不妊とは?
不妊症とは、「子どもを望んで1年経っても自然妊娠しない状態」を指します。原因はさまざまですが、男性側に問題があるケースも多く、実際には不妊症の約48%に男性が関わっているという統計もあります(WHO調査)。
不妊症は、健康に見える人でも体の中で何らかの妊娠を妨げる要因がある「病気」の1つです。そのため、治療が必要になることも珍しくありません。
また、年齢も不妊となる大きな要因です。例えば、男女ともに35歳を過ぎると妊娠しにくくなり、不妊のリスクが高まります。
不妊症は自然に治ることはほとんどないため、早めの検査と専門的な治療が重要です。特に35歳以上の方は、半年間妊娠に至らない場合は一度専門医に相談した方が良いでしょう。
男性不妊になりやすい人の特徴3選
不妊治療は一朝一夕で終わるものではなく、1年以上の長い時間がかかる場合もあります。年齢を重ねるにつれて妊娠・出産のリスクは高まっていくため、不妊治療を始めるなら早いに越したことはありません。
したがって、不妊の可能性を少しでも感じたのであれば、早めに不妊検査を受けることが大切です。
男性不妊の原因は様々ですが、なりやすい人の特徴はいくつか挙げることができます。ここからは、見た目やこれまでの経験、生活習慣、といった3つの観点に分けて、男性不妊になりやすい人に共通している特徴を3つ紹介していきます。
今回ご紹介する特徴に当てはまる場合は、泌尿器科の受診を検討してみてくださいね。
男性不妊になりやすい人の特徴【見た目】
精子は精巣で生成されます。温度が高くなると精子を造る働きに悪影響が出てしまうため、陰のうや精巣はお腹の中ではなく外に出る形をしているのです。
そんな陰のう・精巣ですが、以下のポイントに当てはまる場合は男性不妊のケースもあります。
- 睾丸が小さい、もしくは以前より小さくなった
- 睾丸を触ると柔らかく、張りがない
- 陰のうの表面に欠陥が多く浮き出ている
- 陰のうが腫れていたり、痛みや違和感があったりする
- 睾丸の位置が陰のう内の上方、もしくは鼠径部にある
- 精液に血液が混ざる
- 精液量が少ない
- 精液の色が透明(白く濁っていない)
睾丸が小さかったり柔らかかったりする場合は、精子が生成されていない可能性も考えられます。また、精液量が極端に少ない場合は逆行性射精などが疑われるため、一度泌尿器科で検査した方が良いでしょう。
生殖器・精液の見た目は最も分かりやすい症状です。まずは上記のポイントに該当していないかをチェックし、該当する場合や自己判断が難しい場合は医師の判断を仰ぐようにしてください。
男性不妊になりやすい人の特徴【病歴・手術歴】
男性不妊は、これまでかかった病気や手術によって引き起こされる場合もあります。特に、以下の2つに該当する場合は、男性不妊の可能性を考慮しましょう。
- 鼡径ヘルニアの手術を受けたことがある人
- おたふく風邪にかかり、精巣炎で睾丸が腫れた人
精子は鼡径管(そけいかん)という、鼡径部にある管のような構造物を通って出てきます。鼡径ヘルニアの手術では、鼡径管が一緒に縛られてしまうため、これが男性不妊に繋がることもあるのです。
また、おたふく風邪による精巣炎が起きた場合も男性不妊を疑った方が良いでしょう。不妊症は早期発見が大切です。上記に該当する場合は、パートナーと一緒に産婦人科を受診したり、泌尿器科で医師に相談したりするようにしてください。
男性不妊になりやすい人の特徴【生活習慣】
男性不妊は、普段の生活習慣や無意識にしていることが原因で発症する場合もあります。以下の生活習慣・特徴に心当たりがある方は注意しておきましょう。
- 喫煙者
- アルコールを過剰摂取している
- サウナ・長風呂が好き
- 普段からピタッとした下着やズボンを着用している
- 膝の上でPC作業をしている
- 肥満
- 長時間自動車、自転車、バイクの運転をしている
精巣は温度が高くなるほど精子を生成しにくくなり、男性不妊に繋がります。そのため、サウナや長時間の入浴、締め付けの強い衣服は妊活・不妊治療の際に推奨されていないのです。
デスクワークや運転など、生活する中でどうしても変えられない部分はありますが、定期的に姿勢を変えたり休憩したりするだけでも十分効果はあります。まずは「いつもより早めにお風呂を上がる」といったように、できることから生活習慣を改善していきましょう。
男性不妊の原因・種類とは
男性不妊は、大きく分けて3つの種類に分けることができます。各症状によって原因は異なるため、治療方法も変わってくるのです。
- 造精機能障害
- 性機能障害
- 精路通過障害
ここからは、男性不妊の原因・種類について詳しく見ていきましょう。
造精機能障害
1つ目の原因は「造精機能障害」です。
造精機能障害とは、精子をつくる力が落ちてしまう状態のことです。
男性不妊の約8割はこの障害によるものといわれており、精子の数が極端に少ない、まったくいない、動きが悪い、形が異常といった特徴があります。
原因としては、睾丸まわりの血管が太くなる「精索静脈瘤」や、抗がん剤・放射線の影響などが知られていますが、多くは原因がはっきりしていません。
年齢とともに精子をつくる力も低下していくため、気になる方は早めに男性不妊を専門とする泌尿器科の受診がおすすめです。経験豊富な医師のアドバイスを受けながら、できることから治療を始めましょう。
性機能障害
2つ目の原因は「性機能障害」です。
性機能障害は、大きく「勃起障害」と「射精障害」の2つに分けられます。勃起障害は、勃起できない、または維持できずに性行為がうまくいかない状態を指します。一方の射精障害は、勃起しても射精ができない状態です。
これらの多くはストレスや不安など、心理的な要因が関係しているといわれています。とくに不妊治療中は「排卵日に合わせなければ」といったプレッシャーが、かえって勃起を妨げることもあります。
対策としては、ED治療薬を試してみるのも1つの方法です。薬は保険適用で処方が可能なので、まずは専門医に相談してみましょう。
精路通過障害
3つ目の原因は「精路通過障害」です。
精路通過障害とは、睾丸で精子は正常につくられているのに、それが体外にうまく出てこない状態を言います。
射精の時に出る精液には前立腺液や精嚢液が含まれており、精子が混ざっていなくても見た目では分からないため、多くの方は検査を受けるまで気づきません。
精路通過障害が起きる原因としては、生まれつき精管が閉塞している場合や、過去の手術(鼡径ヘルニアの手術など)によって精子の通り道がふさがれていることなどが考えられます。
他にも、精子が膀胱のほうへ逆流してしまう「逆行性射精」が関係しているケースもあるので、精液検査による早期発見が大切です。
男性不妊の原因|陰のう(いんのう)の見た目から分かること
上述したように、男性不妊の原因の80%は、精子を造る働きが弱い「造精機能障害」によるものです。そして、その造精機能障害の40%を占めるのが、精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)という疾患になります。
精索静脈瘤とは、精巣から伸びる細い血管が集まって太い血管(内精索静脈)になり、その血が逆流してしまうことで静脈がこぶ状にふくれる状態を指します。
精索静脈瘤のほとんどは無症状ですが、まれにこぶがある側の陰のうや鼡径部(そけいぶ)に痛み・不快感が生じる場合もあります。下記の自覚症状に当てはまる場合は、泌尿器科で精索静脈瘤の検査を受けてみると良いでしょう。
- 精巣・陰のうのサイズに左右差がある
- 陰のうが常に垂れている
- 陰のうの表面が凸凹している
- 陰のう内にミミズが這っているような見た目をしている
泌尿器科では、「オーキドメーター」と呼ばれる機械を使って精巣の大きさを判断します。症状に困っている場合や男性不妊症の原因だと考えられる場合は手術を受けることになるので、自覚症状や現在の状況は的確に伝えるようにしましょう。
不妊になりやすい職業とは【男性の場合】
男性不妊の原因は様々ですが、その中には職業に関連する要因も含まれます。働く環境や職務内容が、男性の生殖機能に少なからず影響を与えることもあるのです。
実際に、不妊になりやすいとされている職業をいくつか確認してみましょう。
- 夜勤のある職業
- デスクワークが中心
- 美容師
- トラック・バス・タクシーの運転手
- 看護師
上記の職業は、夜勤などで不規則な生活を送っていたり、業務過多による疲労が大きかったりする割合が高いと言われています。
精子の質に最も重要なテストステロンというホルモンは睡眠中に分泌するため、夜勤がある場合は分泌量が少なく、結果的に精子の質の低下に繋がるのです。
また、上記の職業以外でも、職場の喫煙率が高かったり、高温多湿の環境であったりする場合は男性不妊になりやすいとされているので、注意が必要です。
職場を変えるのは簡単ではありませんが、喫煙や飲酒の頻度を減らすといった対策を取ることで、精子の質は高められます。無理のない範囲で生活習慣の改善を意識してみてくださいね。
男性不妊の予防方法・精子の質を高める生活習慣とは
男性不妊の原因は、病気など自分ではどうしようもないものもありますが、精子の質を高めるためにできることはいくつかあります。男性不妊でないか気になる方、妊活をしている方は以下のポイントに注意して過ごしてみましょう。
- 適度に運動する
- 栄養バランスの良い食事をする
- 禁煙する
- アルコールの摂取量を減らす
- ストレスの発散方法を見つける
- 衣類は密着しない、風通しの良いものを選ぶ
- サウナ・長風呂は避ける
- 禁欲しすぎない
上記で挙げたポイントは、精子の質を高めるだけでなく、体の不調を整えるのにも役立ちます。適度な運動や禁煙はもちろん、亜鉛や葉酸などの栄養素も積極的に摂ることで妊活にも良い影響を及ぼすでしょう。
また、精子の質を高めるために禁欲する男性も多くいますが、長期間の禁欲は精子の劣化に繋がるため、注意が必要です。最低でも1週間に1回は射精し、できるだけ禁欲期間が長くならないように意識しておきましょう。
男性不妊の検査・治療方法
ここからは、男性不妊の検査方法と3つの治療方法について詳しく確認していきましょう。
- 男性不妊の検査方法
- 男性不妊の治療方法【クロミフェン法】
- 男性不妊の治療方法【GnRH療法】
- 男性不妊の治療方法【下垂体ゴナドトロピン療法】
それぞれ順番に解説していきます。
男性不妊の検査方法
男性不妊の主な検査方法は精液検査です。男性不妊では問題なく射精できているように見えても、精液に精子が混じっていなかったり、精液量が極端に少なかったりという問題が隠されていることがあります。
精液検査は精液の量や精子の数、運動率などを確認するためのものです。その結果によって男性不妊かどうかが判定され、治療の段階を進めていくことになります。
精液検査の結果判定の指標には、WHOが示している基準値が用いられています。実際に、WHOの検査値を確認してみましょう。
精液量 | 1.4mL |
---|---|
精子濃度 | 1,600万/mL |
総精子数※1 | 3,900万/射精 |
総運動率※2 | 42% |
正常精子形態率 | 4% |
※2 「精液量×濃度×運動率」で算出した動いている精子の総数
なお、上記の数値に問題がない場合でも、他に何か違和感や異常があれば触診やエコー検査、遺伝子検査などを行います。決して自己判断だけで終わらせず、不安がある場合は医師に相談するようにしてくださいね。
男性不妊の治療方法【クロミフェン法】
クロミフェン法とは、「ゴナドトロピン製剤」という薬剤を使用してエストロゲンを低下させ、精子の生成を促すための治療を指します。
クロミフェン法が用いられるのは、乏精子や精子無力症といった造精機能障害が疑われる場合です。1日1錠の服用を通常4~6ヶ月続けることによって、不妊症の改善を目指します。
なお、クロミフェン法の場合は胃腸障害や目のかすみといった副作用が出る場合もあるため、注意が必要です。長期間の服用は悪影響なので、医師の指示をしっかりと守るようにしてください。
男性不妊の治療方法【GnRH療法】
GnRH療法とは、GnRH(ゴナドトロピンリリーシングホルモン)やそれに類似した薬剤を投与する治療のことを指します。
前述したクロミフェン法のように、造精機能障害が疑われる場合に用いられる治療法でもあり、ホルモン値を観察しながら投与をしていくのです。
なお、GnRH療法では、下垂体の機能が低下する副作用が見られることもあるため、注意が必要です。異常を感じたらすぐに報告し、治療を中止するようにしてくださいね。
男性不妊の治療方法【下垂体ゴナドトロピン療法】
下垂体ゴナドトロピン療法とは、ホルモン欠損が原因で造精機能が低下する場合に用いられる治療です。ゴナドトロピンを補充することによって精子の産生を促します。
下垂体ゴナドトロピン療法は、男性不妊の薬物療法の中で最も効果が期待できる治療とも言われています。ただし、自然妊娠を望めるための治療ではなく、あくまで顕微授精の中でより有効的な精子を生成するための治療である点に注意しましょう。
なお、下垂体ゴナドトロピン療法ではごくまれに睾丸の委縮、女性化乳房といった副作用が起きる場合もあります。副作用が出る場合は治療を中止する必要があるので、症状が見られた時点で必ず医師に相談するようにしてください。
男性の不妊治療は保険適用となる?
結論から言うと、男性不妊の治療は保険適用となります。
前述した薬物療法はもちろん、勃起障害(ED)の薬も保険適用となるため、経済的な負担を抑えつつ不妊治療を行うことが可能です。男性は年齢や治療回数による制限はありませんが、できるだけ早いうちに検査や治療に進んだ方が良いでしょう。
なお、スクリーニング検査は一部のケースを除き、基本的には保険適用外となります。初回診療の際は、1万円前後の費用が必要になると考えておきましょう。
男性不妊の原因|なりやすい人の特徴は?よくある質問
男性不妊の原因|なりやすい人の特徴【まとめ】
男性不妊の原因は遺伝的要因から生活習慣、環境的要因に至るまで多岐にわたります。また、これらの原因は1つに限定されることなく、複数の要因が絡み合って影響するケースも珍しくはないのです。
しかし、生活習慣の改善によって精子の質や生殖能力が向上するケースも報告されています。適度な運動やバランスのとれた食事、禁煙、ストレス管理が有効と言われているため、普段から意識しておくと良いでしょう。
不妊治療は男性側の状況によって、女性が受けるべき検査や治療が異なります。パートナーと取り組むべきものだからこそ、男性側の検査を後回しにせず、2人で検査を受け、治療に臨むようにしてくださいね。