「自己注射を自分で打つのが怖い」「自己注射を選ぶメリットってあるの?」と、不妊治療で自己注射を勧められ、不安や疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。
自己注射とは、自宅で排卵を促すホルモン薬などを自分で投与する方法で、通院の負担を減らしながら治療を進められるメリットがあります。
本記事では、不妊治療における自己注射の仕組みやメリット、正しい打ち方や注意点、よくある失敗例まで分かりやすく解説するので、自己注射に不安を感じている方はぜひ参考にしてください。
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江川 美穂
不妊治療の専門家兼NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定の不妊カウンセラー。大学卒業後、不妊治療に興味を持ち、不妊治療を研究している医療機関を徹底的に調査して分析。自身も不妊治療を経験し、現在は一児の母。

原田 美由貴
自身も不妊治療を経験。「子どもを授かりたい」という強い思いから、不妊治療に特化した数多くの医療機関を受診。体外受精やホルモン治療など、さまざまな治療法に取り組んできた実体験をもとに、不妊に悩む方々に寄り添う記事を執筆。現在は二児の母。
不妊治療の自己注射とは
不妊治療における自己注射とは、排卵誘発剤などのホルモン製剤を自宅で自分自身に投与する方法で、主に体外受精や顕微授精、卵子凍結の採卵準備で行われます。
複数の卵胞を同時に育てることで採卵数を増やせるため、一度の採卵でより多くの卵子を確保できる点が特徴です。
不妊治療の窓口 編集部メンバーも卵子凍結をした際に「レコベル」という注射薬をお腹に打ちました。その経験も踏まえて解説していくので、リアルな経験談を知りたい方はぜひ参考にしてください。
不妊治療で使われる自己注射の種類
ここからは、不妊治療で使われている自己注射を種類別に解説していきます。
- hMG・rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)
- GnRHアンタゴニスト製剤
- hCG注射(ヒト絨毛性ゴナドトロピン製剤)
それぞれ順番に解説するので、ぜひ参考にしてください。
hMG・rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)
1つ目は「hMG・rFSH注射(ゴナドトロピン製剤)」です。
hMG・rFSH注射は卵巣を直接刺激して複数の卵胞の発育を促す薬剤で、採卵に向けた排卵誘発の中心的な役割を担っています。
生理開始2〜3日目頃から連日投与するのが一般的で、体外受精や卵子凍結でできるだけ多くの卵子を確保したい場合に適した方法です。
私が卵子凍結で使ったのも、rFSH製剤の「レコベル」という注射薬でした。生理が始まってから最初の診察日に処方され、その日から毎晩自分でお腹に注射を打つ生活が始まりました。




GnRHアンタゴニスト製剤
2つ目は「GnRHアンタゴニスト製剤」です。
GnRHアンタゴニスト製剤は、卵胞が十分に育つ前に排卵してしまうのを防ぐ薬剤で、採卵前の自然排卵を抑える目的で使われます。
卵胞がある程度の大きさまで育った段階から、hMG・rFSH注射と並行して数日間追加されるケースが一般的です。
この注射を打ち忘れると採卵前に排卵してしまうリスクがあるため、指示された日時を必ず守るようにしてください。
hCG注射(ヒト絨毛性ゴナドトロピン製剤)
3つ目は「hCG注射(ヒト絨毛性ゴナドトロピン製剤)」です。
hCG注射は成熟した卵胞に排卵の最終指令を出す「トリガー」と呼ばれる薬剤で、採卵時刻に合わせて投与時間が指定されます。


採卵の時刻から逆算して注射時刻が細かく指定されるなど、3種類の中でも特に時間厳守が求められる注射です。
hCG注射の時間を大きく間違えると採卵に影響する可能性があるため、失敗に気付いた時点ですぐにクリニックへ連絡するようにしてください。
不妊治療で自己注射をするメリット
ここからは、自己注射をするメリットを解説していきます。
- 通院の回数が少なくなる
- 経済的な負担を軽減できる
- 点鼻薬や経口薬に比べてより強い効果が見込める
それぞれ詳しく見ていきましょう。
通院の回数が少なくなる
1つ目は「通院の回数が少なくなる」です。
排卵誘発の注射は連日投与が基本となるため、通院注射では仕事や家事の予定を調整しながら、決められた期間に何度もクリニックへ足を運ぶ必要があります。
一方、自己注射なら医師から指定された時間に自宅や外出先で投与でき、毎日注射のためだけに受診する必要がなくなるので、通院の負担を大幅に減らせます。
卵胞の成長を確認する診察などは数回必要ですが、仕事と治療を両立している方や、遠方のクリニックへ通っている方にとって、時間を確保しやすい点は大きなメリットです。
経済的な負担を軽減できる
2つ目は「経済的な負担を軽減できる」です。
自己注射で通院回数を減らすと、診察費や交通費を抑えられるため、治療に伴う経済的な負担を軽減できます。
2022年4月から体外受精などの不妊治療が保険適用となり、治療内容や条件によっては自己注射で使用する薬剤も3割負担で処方を受けられるようになりました。
さらに、通院のために仕事を遅刻・早退したり休んだりする回数も減らせるので、治療費だけでなく、仕事や収入への影響を抑えながら治療を続けやすくなるでしょう。
点鼻薬や経口薬に比べてより強い効果が見込める
3つ目は「点鼻薬や経口薬に比べてより強い効果が見込める」です。
排卵誘発に使われる注射薬は卵胞の発育を促すホルモンを投与するため、内服薬などと比べて卵巣への刺激が強く、複数の卵胞を育てる効果が期待できます。
特に、内服薬だけでは十分な卵胞発育が得られない場合や、卵巣の状態に合わせてより積極的に排卵誘発を行いたい場合などに選択されます。
不妊治療における自己注射のスケジュール・頻度
自己注射のスケジュールは、治療法や卵巣の反応によって異なります。ここでは、体外受精・卵子凍結におけるスケジュールの一例を確認していきましょう。
| 時期 | 注射の内容 |
|---|---|
| 生理2〜3日目 | hMG・rFSH注射を連日投与 (8〜12日程度) |
| 卵胞が育った段階 | GnRHアンタゴニスト製剤を併用 |
| 採卵の34〜36時間前 | hCG注射(トリガー)を投与 |
| 採卵当日 | 注射なし・採卵を実施 |
注射の頻度は1日1回が基本で、毎日できるだけ同じ時間帯に投与するのが望ましいとされています。
私の場合は、7月3日から毎晩注射を打ち始め、2〜3日おきの診察で卵胞の育ち具合を確認しながら、次回の診察までの分を処方してもらいました。7月14日の診察で「採卵は2日後にしましょう」と告げられ、7月16日に採卵という流れです。
採卵日は直前まで確定しないので、働きながら治療する場合は、急な休みに対応できるよう職場と相談しておくと安心ですよ。
通院日に次回までの注射スケジュールを渡される場合は、事前にスマホのアラームやアプリで管理すると打ち忘れの対策に役立ちます。
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不妊治療における自己注射のコツ・やり方
ここでは失敗しにくい自己注射の基本的な流れを解説していきます。
石けんで手を洗い、注射器・アルコール綿・針捨て容器を清潔な場所に準備します。冷蔵保管の薬剤は、指示に応じて常温に戻しておきましょう。
ペン型はダイヤルで指示された単位数を設定し、バイアル製剤は溶解液で溶かして指示量を吸い上げます。この際、投与量の設定ミスをしないためにも、設定後にもう一度確認してください。
おへそから5cm以上離れた腹部などをアルコール綿で消毒し、乾くまで待ちます。毎回少しずつ場所をずらすと、皮膚への負担を減らせますよ。
皮膚を軽くつまみ、針を刺してゆっくり注入します。注入後に数秒待ってから針を抜くと、薬液漏れの対策になります。
編集部メンバーが使用した「レコベル」の注射針の写真はこちらになります。


針がとても細いので、思っていたよりも痛くはなかったです!刺す瞬間にチクッとするくらいで、血も出ませんでした。
使用済みの針は針捨て容器に入れ、クリニックの指示に従って回収してもらいます。医療廃棄物にあたるので、家庭ごみに捨ててはいけません。
私も初めての自己注射はとても不安でしたが、クリニックでは看護師さんがマンツーマンで、針の角度や刺す場所、力の入れ方まで一つひとつ見せながら教えてくれました。
説明を受けた後は、練習用の注射器を使って実際に自分のお腹に打つ練習もできたので、初めてでも安心して始められました。打ち方をまとめた説明書ももらえたので、やり方を忘れてしまったときに見返せたのも心強かったです。
編集部メンバーが採卵を行ったにしたんARTクリニックでは、レコベルの打ち方を詳しくまとめた説明書をもらえるので、注射のやり方を忘れてしまった場合でも安心です。


不妊治療の自己注射に失敗したときの対処法
ここからは、自己注射でよくある失敗の対処法を紹介します。
- 薬液が漏れた・注入しきれなかった
- 注射を打ち忘れた・時間がずれた
- 投与量を間違えた
- 注射後に出血・腫れ・痛みがある
それぞれ順番に解説していきます。
薬液が漏れた・注入しきれなかった
1つ目は「薬液が漏れた・注入しきれなかった」です。
針を抜いた後に薬液が少量にじむ程度であれば、大部分は体内に入っているとされ、過度な心配は不要なケースが多いです。
なお、針を刺した後に数秒待ってから抜く、注入中に手を動かさないなどを意識すると、薬液漏れの対策に役立ちますよ。
注射を打ち忘れた・時間がずれた
2つ目は「注射を打ち忘れた・時間がずれた」です。
自己注射を打ち忘れたときは、まず何時間ずれたのかを確認し、使用している薬剤名とあわせて記録しておく必要があります。
対応方法は薬剤によって異なるため、自己判断で追加投与せず以下を参考にクリニックへ確認してください。
| 薬剤 | 考えられる影響 | 対応例 |
|---|---|---|
| hMG・rFSH注射 | 卵胞の発育に影響する可能性がある | 気付いた時点でクリニックへ連絡し、投与の可否を確認する |
| アンタゴニスト製剤 | 予定より早く排卵する可能性がある | すぐにクリニックへ連絡し、その後の投与方法を確認する |
| トリガー注射 | 排卵や採卵のタイミングがずれる可能性がある | 予定時刻からずれた時点でクリニックへ連絡する |
特にアンタゴニスト製剤や採卵前のトリガー注射は、投与時刻のずれが排卵や採卵のタイミングに影響する可能性があります。気付いた時点で早めにクリニックへ連絡するようにしましょう。
投与量を間違えた
3つ目は「投与量を間違えた」です。
ダイヤルの設定ミスなどで量を間違えた場合は、多すぎても少なすぎても、まずはクリニックへ連絡して状況を正確に伝えましょう。
特に量が多かった場合は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)などの副作用リスクが高まる可能性もあるため、体調の変化に注意が必要です。
注射後に出血・腫れ・痛みがある
4つ目は「注射後に出血・腫れ・痛みがある」です。
注射後の少量の出血や内出血、軽い赤み・かゆみは比較的よく見られる反応で、数日で自然に落ち着くケースがほとんどです。
出血した場合は清潔なガーゼやアルコール綿で軽く押さえれば止まりやすく、揉んだり強くこすったりする必要はありません。
ただし、腫れや痛みが強くなり続ける場合や、しこり・発熱を伴う場合は、感染などの可能性もあるため早めに受診するようにしてください。
不妊治療の自己注射で失敗しないための注意点
自己注射の失敗やトラブルを防ぐためには、以下の3つの注意点を押さえておく必要があります。
- 副作用を把握しておく
- 注射薬の管理を徹底する
- 強い痛みや違和感がある場合は無理をしない
順番に解説していきます。
副作用を把握しておく
1つ目は「副作用を把握しておく」です。
排卵誘発剤の使用中は、注射部位の赤みやかゆみ、頭痛、お腹の張りなどが現れることがあります。治療を始める前に、起こりやすい症状を把握しておきましょう。
中でも注意したいのが、卵巣が過剰に刺激されて腫れ、腹水や胸水がたまる「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」です。OHSSは重症化すると入院が必要になる場合もあります。
急激なお腹の張りや体重増加、尿量の減少、強い吐き気など普段とは異なる症状が現れた場合は、自己判断で様子を見ず、すぐにクリニックへ連絡してください。
実際に私も、注射を打ち始めてからお腹が張るような感覚があり、注射を打った日は毎回気持ち悪く、ベッドに入っても1時間ほど寝つけないことがありました。
さらに採卵後には、お腹の張りや痛みに加えて息苦しさまで感じるようになり、急遽クリニックを受診したところ、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と診断されました。
すぐに薬を処方してもらえたおかげで、症状は2日程度で治まりましたが、「いつもと違う」と感じたら我慢せず早めに相談することが大切だと実感しました。
※体験者個人の一例です。症状や経過は人によって異なります。
注射薬の管理を徹底する
2つ目は「注射薬の管理を徹底する」です。
自己注射では投与方法だけでなく薬剤の保管方法も守る必要があります。種類によって冷蔵保存などの条件が異なるため、処方時に医師や薬剤師の説明を確認しておきましょう。
指定された保管方法を守らず、高温になる場所へ長時間放置したり誤って凍結させたりすると、品質に影響する可能性があるので、異常があれば使用前にクリニックへ確認してください。
私の場合は、注射薬を処方された日に保冷バッグも一緒に渡されました。持ち帰り方や自宅での保管方法は、処方されたその場で確認しておくと安心ですよ。


強い痛みや違和感がある場合は無理をしない
3つ目は「強い痛みや違和感がある場合は無理をしない」です。
自己注射への恐怖心が強かったり、毎回強い痛みを感じたりする場合は、我慢しながら続けるのではなく、早めにクリニックへ相談して自分に合った方法を検討してください。
クリニックへ相談すれば、注射方法をもう一度教えてもらえるほか、使用する薬剤によっては注射器の変更や通院注射への切り替えなどを検討できる場合もあります。
強い不安を抱えたまま自己注射を続けると、投与時刻や手順を間違える原因にもなりかねないため、無理なく正確に続けられる方法で治療を進めていきましょう。
私も「注射なんて怖い」「自分で打てるか不安」と感じていた一人です。ただ、排卵誘発剤の「レコベル」は針がとても細く、刺す瞬間にチクッとする程度で、血も出ませんでした。
一方で、採卵後に処方された注射薬「ガニレスト」は裁縫の針ほどの太さがあり、打つときはとても痛かったです。同じ自己注射でも薬剤によって痛みの感じ方は違うので、つらいときは我慢せずクリニックに相談してみてくださいね。




※あくまでも個人の感想です。
不妊治療の自己注射の失敗に関するよくある質問
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自己注射で投与量や時間を間違えたり、薬液が漏れたりした際は、自己判断でもう一度注射すると過剰投与につながる可能性があるため、まずはクリニックへ連絡してください。
自己注射の失敗を防ぐには、投与する時間や薬剤の量を事前に確認し、説明書を手元に置いて落ち着いて準備するなど、毎回同じ手順で進めるのがおすすめです。
また、自己注射への不安が強い場合は一人で抱え込まず、注射方法を再確認したり通院注射への変更を相談したりしながら、自分が無理なく続けられる方法を選ぶと良いでしょう。
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