「採卵してみたら卵子がほとんど採れなかった」「何度採卵しても空胞ばかり」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。
採卵は身体的にも経済的にも負担が大きい治療です。そのため、空胞が続くと次の採卵でも同じ結果になるのではないか、このまま治療を続けても妊娠できるのだろうかと不安を抱くのも当然です。
本記事では、採卵で空胞が続く原因と、次回の採卵で結果を変えるための具体的な対処法を詳しく解説します。空胞に悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。
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江川 美穂
不妊治療の専門家兼NPO法人日本不妊カウンセリング学会認定の不妊カウンセラー。大学卒業後、不妊治療に興味を持ち、不妊治療を研究している医療機関を徹底的に調査して分析。自身も不妊治療を経験し、現在は一児の母。

原田 美由貴
自身も不妊治療を経験。「子どもを授かりたい」という強い思いから、不妊治療に特化した数多くの医療機関を受診。体外受精やホルモン治療など、さまざまな治療法に取り組んできた実体験をもとに、不妊に悩む方々に寄り添う記事を執筆。現在は二児の母。
採卵で空胞はいつわかる?|空胞とは
空胞とは、エコーで確認できていた卵胞から卵子を回収できなかった状態です。複数の成熟卵胞が育っていたにもかかわらず、採卵で卵子を1個も回収できない状態は、Empty Follicle Syndrome(EFS、空胞症候群)と呼ばれます。
卵胞(らんぽう)とは
卵子を包み込み、育てている袋状の組織のこと。エコーでは黒い丸として映るが、映っているのは「袋」であって「卵子」そのものではない。
空胞には、卵子が存在していてもトリガーの効き方や採卵条件の影響で回収できない「偽の空胞」と、ホルモン値や採卵手技に明らかな問題がなくても卵子を回収できない「真の空胞」があります。

- 偽の空胞(False EFS)
・卵子は存在していたものの、トリガー(排卵誘発の最終注射)の効きが不十分だったり、吸引条件が合わなかったりしたため回収できなかった状態
・比較的多くみられる - 真の空胞(Genuine EFS)
・ホルモンの条件や採卵手技に問題がないにもかかわらず、卵子を回収できない状態
・発生頻度は非常に稀
空胞が起こる頻度は個体差がありますが、全採卵周期のうち数%程度です。中でも、薬剤や手技の要因を除いた「真の空胞」はごく一部にとどまると考えられています。
また、エコーで見えているのはあくまで卵胞という「袋」で、その中に卵子が入っているかどうかまでは確認できません。
空胞があっても薬剤の使い方や刺激法を見直せば、次回の採卵結果が変わるケースは十分にあるので、「もう卵子が残っていない」と決めつけないようにしましょう。
採卵で卵子を回収する仕組み
空胞の原因を理解するには、まず採卵という手術で実際に何が行われているのかを知っておく必要があります。
ここからは、イメージしやすい例えを使って解説していきます。
- 採卵は掃除機のようなもの
- 卵子の吸いやすさの違い
- 空胞でも卵子を回収できる可能性はある?
それぞれ詳しく紹介するので、ぜひ参考にしてください。
採卵は掃除機のようなもの
採卵では、採卵針を掃除機のノズル、吸引装置を本体のように使い、卵胞の中にある卵胞液と卵子を一緒に吸い上げて回収します。


採卵で「吸えるかどうか」を左右する要素は以下の通りです。
- 吸引圧(強すぎると卵子が傷つき、弱すぎると剥がれない)
- 針の太さ・種類(細い針は痛みが少ない反面、詰まりやすい)
- 卵子と卵胞壁のくっつき具合
- 卵巣の位置(腸管や血管を避ける必要があり、刺せる角度に制限がある)
掃除機が床にしっかり張り付いたゴミを一度で吸えない場合があるのと同じで、卵子が卵胞の壁に張り付いたままだと、液体だけが吸われて卵子が残ってしまいます。
そのため、多くのクリニックでは、卵子が回収できなかった卵胞に培養液を注入して内部を洗浄し、壁に残っている卵子の回収を試みる「フラッシング(卵胞洗浄)」という処置を行う場合が多いです。
卵子の吸いやすさの違い
採卵時の卵子は、そのまま卵胞液の中に浮かんでいるわけではなく、卵丘細胞(らんきゅうさいぼう)と呼ばれる細胞の集まりに包まれています。
この卵丘細胞の状態によって、卵子の吸いやすさは以下のように異なります。


- 回収しやすい状態
・トリガーが十分に作用し、卵丘細胞が膨らんでいる
・卵子と卵丘細胞が卵胞壁から離れ、卵胞液と一緒に回収しやすい - 回収しにくい状態
・卵丘細胞が十分に膨らまず、卵胞の壁にべったり張り付いている状態
・吸引しても剥がれにくく、空胞になりやすい
採卵前に打つトリガー(hCG注射やGnRHアゴニスト点鼻薬)には、卵子の最終的な成熟を促すと同時に、この卵丘細胞をふわりと膨らませて卵胞壁から剥がれやすくする役割があります。
つまり、トリガーの効きが不十分だと、卵子は存在していても卵胞壁から剥がれず、結果として空胞と判定されかねないということです。
空胞でも卵子を回収できる可能性はある?
結論から言うと、空胞は卵子が回収できていない状態なので、受精や凍結に使うことはできません。
一方、空胞だと思われた卵胞から、洗浄によって卵子が見つかるケースはあります。また、採れた卵子が未熟だった場合にも、次のような選択肢が残されています。


- フラッシング:卵胞を洗浄し、壁に残った卵子を回収する
- IVM(体外成熟培養):未熟な卵子を培養液の中で成熟させてから顕微授精する
- 顕微授精(ICSI):精子所見や過去の受精結果などを踏まえ、医師が適応を判断する
一方で、変性卵(へんせいらん)と呼ばれる、すでに構造が壊れてしまった卵子については残念ながら使用できません。
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採卵で空胞ばかりの原因&理由
ここでは、空胞が続く背景として考えられる年齢と遺残卵胞の影響を解説します。
- 加齢
- 遺残卵胞
まずは加齢の影響から確認していきます。
加齢
1つ目は「加齢」です。
女性の卵子は出生時に約200万個ありますが、20歳ごろには十数万個、30歳で数万個、40歳では数千個程度まで減少していきます。そして年齢とともに減っていくのは「数」だけでなく、卵子の「質」も同様です。


加齢による卵巣の変化は以下の通りです。
- 卵胞は育つものの、中の卵子がすでに退行(閉鎖)している
- 卵胞の発育スピードがバラバラで、成熟のタイミングが揃わない
- トリガーへの反応が鈍く、卵丘細胞が十分に膨化しない
- 卵胞液の性状が変化し、卵子が壁から離れにくくなる
これらが重なると、エコーでは卵胞が見えているのに、実際には卵子が入っていないという状況が起こりやすくなります。
また、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値が低い方や、卵巣予備能が低下している方では、そもそも1周期に育つ卵胞数が限られるため、1個の空胞が採卵結果に与える影響も大きくなります。
遺残卵胞
2つ目は「遺残卵胞(いざんらんぽう)」です。
遺残卵胞とは前の周期に育った卵胞や黄体が、月経が来ても消えずに卵巣内に残ってしまったもので、「遺残嚢胞(いざんのうほう)」「遺残黄体」と呼ばれることもあります。
遺残卵胞はエコー上は新しい卵胞とまったく同じ黒い丸に見えてしまうため、例えば「今周期は卵胞が8個ある」と思っても、その中に中身のない古い袋が混ざる原因になります。
このような卵胞に針を刺しても卵子は回収できず、空胞となる点がやっかいです。
さらに遺残卵胞は、エストロゲンやプロゲステロンを分泌し続ける場合があるので、採卵周期へ影響することも考えられます。
- ホルモン値が乱れ、刺激開始のタイミングを誤りやすくなる
- 他の卵胞の発育が抑えられ、育つ数が減る
- 卵胞の発育が不揃いになり、成熟卵の割合が下がる
- 空胞や未熟卵が増える
採卵で空胞ばかり|改善策とは
ここからは、採卵で空胞ばかりだったときの改善策を紹介します。
- ダブルトリガー
- トリプルトリガー
- 規則正しい生活と食事
- 卵子の質を上げる
それぞれ順番に解説していきます。
ダブルトリガー
1つ目は「ダブルトリガー」です。
ダブルトリガーとは、hCG製剤とGnRHアゴニスト(点鼻薬・注射)という作用の異なる2種類の薬剤を併用して、卵子の最終成熟を促す方法です。
それぞれの薬剤には、次のような特徴があります。
- hCG製剤:LH(黄体化ホルモン)と似た働きをし、長時間にわたって卵子の成熟を促す
- GnRHアゴニスト:自分の脳下垂体からLHとFSHを一気に放出し、自然な排卵前に近い環境をつくる
この2つを組み合わせると、LHサージ(排卵直前の急激なホルモン上昇)がより自然な形で再現され、卵丘細胞の膨化や卵子と卵胞壁の分離が促されやすくなると考えられています。
実際に、これまで空胞や未熟卵が多かった方が、ダブルトリガーに変更したことで成熟卵の回収率が改善したという報告もあります。片方の薬剤への反応が弱い体質の方にとっては、有力な選択肢と言えるでしょう。
トリプルトリガー
2つ目は「トリプルトリガー」です。
トリプルトリガーは、ダブルトリガーにさらに薬剤の追加投与や時間差投与を組み合わせ、より確実に最終成熟を促そうとする方法です。
具体的な組み合わせや投与スケジュールは施設によって定義が異なりますが、一般的には次のような形が取られます。
- GnRHアゴニスト+hCGに加えて、時間をずらしてhCGを追加投与する
- 点鼻薬を複数回に分けて使用し、LHサージの持続時間を延ばす
- 採卵までの待機時間(通常34〜36時間)を調整する
特にhCGの血中濃度が上がりにくい体質の方(BMIが高い方や、注射の吸収に個人差がある方)では、単回投与では十分な刺激が届かない場合があります。
規則正しい生活と食事
3つ目は「規則正しい生活と食事」です。
ホルモン分泌は自律神経と密接に関わっているため、睡眠や食事のリズムを整えることは、採卵に向けた体づくりにつながります。採卵に向けて意識したい生活習慣は以下の通りです。
- 睡眠:6〜7時間以上を確保し、就寝・起床時刻をなるべく一定に
- 禁煙:喫煙は卵子の老化を早めることが分かっている(受動喫煙も含む)
- 食事:たんぱく質・鉄・ビタミンDを意識し、極端な糖質過多を避ける
- 体重管理:やせすぎ・太りすぎはどちらもホルモンバランスに影響する
- 適度な運動:ウォーキングやストレッチで骨盤内の血流を促す
- 冷え対策:入浴や衣服で体を冷やしすぎない
また、妊活中は精神的な負担を抱え込みすぎないようにするのも大切です。
1周期治療を休む、通院のペースを見直す、パートナーや専門のカウンセラーに相談するなど、自分に合った方法で気持ちを整えながら治療を続けましょう。
卵子の質を上げる
4つ目は「卵子の質を上げる」です。
空胞の背景には、卵胞は育っていても中の卵子がすでに退行しているケースがあります。そのため、卵胞が育つ過程(約3〜6ヶ月)を良い状態で過ごせるよう体を整えておくことが大切です。
卵子の質に影響すると考えられている主な要素は、以下の通りです。
- ミトコンドリア機能:卵子が成熟・受精するためのエネルギー源
- 酸化ストレス:喫煙・睡眠不足・過度なストレスで増加し、卵子にダメージを与える
- 血流:卵巣への血流が滞ると、必要な栄養やホルモンが届きにくくなる
- 栄養状態:葉酸・鉄・ビタミンD・亜鉛などの不足
卵子は、原始卵胞から採卵可能な大きさに育つまでにおよそ3〜6ヶ月かかると言われています。つまり、今日の生活習慣が影響するのは「次の周期」ではなく「数ヶ月先の採卵」ということです。
質を上げるための具体的な取り組みについては、卵子の質を上げるにはで詳しく解説しているのでぜひ参考にしてくださいね。
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採卵で空胞ばかりになる場合のよくある質問
採卵で空胞が続いても諦めないで!【まとめ】
空胞とは、エコーで確認できた卵胞から卵子を回収できなかった状態です。エコーに映るのは卵胞で、卵胞数と採卵数が一致しないケースは珍しくありません。
空胞の原因には、加齢や遺残卵胞のほか、トリガーの効き方や採卵手技など見直せる要素もあります。
刺激法やトリガーの変更、休薬によって採卵結果が改善するケースもあるため、焦らず担当医と相談しながら、自分に合った方法で治療を続けていきましょう。
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